ATとSCを1人で兼任するべきでは無い4つの理由

先日、「特にチームでの場合、アスレティックトレーナーとストレングスコーチは別の職種で1人で両方やるのは無理があります。ですのでチームは兼任させるのでは無く、両方雇いましょう。それの方が選手への結果も良く出ると思います。」というツイートをしました。これについて僕の思うことをアメリカでの状況を元に書きます。

1アスレティックトレーナー(AT)とストレングス&コンディショニングコーチ(SC)は違う職業。
ATSCは似たような職業であり、業務として重なる部分もありますが違う仕事です。簡単に言うと、ATは医療的な仕事が多く、SCはトレーニング的な仕事が多いです。

ATは怪我の予防、診断、治療、リハビリテーションが主な仕事で選手の健康管理をします。

一方のSCは選手のスポーツでの技術とパフォーマンスを伸ばす事が仕事で選手のフィットネスの管理をします。先程言った重なる部分とはATが行うリハビリの終盤とSCが行うトレーニングの序盤です。

2ATSCは教育制度が別であり、資格試験も別である
ATSCは共に身体を扱う仕事ですから基礎科学のクラスは同じものを履修することがほとんどです。例えば、解剖学や生理学は共に取ります。専門教科や実習で違いが出てきます。専門教科ではATは怪我の診断や治療について学ぶのに対し、SCはトレーニングの方法や処方について学びます。

同じように実習ではATはアスレティックトレーニングルームや練習、試合で怪我の対処をし、SCはウエイトトレーニングルームやフィールドでウエイトトレーニングやコンディショニングの指導をします。

このように異なる教育課程なので資格試験も違いますし、資格を管轄する団体も違うのです。

3ATSCでは選手への役割が異なる
ATは選手が落ち込んでる時のメンタルサポート的な面が多くあり、選手の怪我からの悩みを聞いたり、相談に乗ったりします。選手は常に競争をする世界にいますから自分の弱みを出したり、「出来ない」と言いづらかったりします。特にコーチにはそのようなことを言うのは難しいのです。それはコーチからの選手としての評価に影響するのではないかという心配があるからです。しかし、ATは選手としてのパフォーマンスを評価する立場では無いので、選手にとってATはチームの中で「弱み」を出してもいいかなと思える存在なのです。

SCは名前の通り、コーチです。コーチですから競技のコーチと変わりありません。SCは選手の技術とパフォーマンスを伸ばすためにトレーニング中に追い込みます。それは競技の練習中と同じで厳しいです。チームの選手同士はトレーニング中でも結果を競い合います。練習中と同じでいかに自分の方が優れているかを意識しています。競技のコーチ程でなくとも、SCにも弱みを吐きづらい状況ではあります。例えば、「痛いからこのトレーニングは出来ない」といったことです。

このようにATSCでは選手への役割が異なるので1人が両方を兼任していると選手としてはコミュニケーションが難しい場合があると僕は感じています。選手が本当のことを言えなくなり、無理をする環境になってしまうと思います。もちろん、ATSCの人間性や選手との関係性が影響しますので必ずしもこれが当てはまるというわけではありませんが、仕事の側面から言うと僕はこのように感じています。

4ATSCの兼任だとブラックだから
日々の業務を見ても1人でATSCをやると膨大な仕事量になります。

ATとしては練習前に選手を練習に向けて準備させ、練習の準備もします。例えば、選手のテーピングや治療、リハビリ、そして、練習のための水の準備もします。練習中は発生した怪我の対応や怪我で練習をしていない選手の治療やリハビリをします。そして、練習後にはまた治療があり、練習の後片付けもあります。それだけでなく、リハビリメニューの作成や毎日の治療や怪我の記録などの事務的なこと、医師との連絡など他にもやることがあります。

SCとしては練習とまた別の時間にトレーニングを選手にさせ、指導をします。そのためのメニュー作成や選手の身体データの収集と分析もあります。チームのトレーニングの参加出来ない選手には別の時間で個人セッションを行うこともあります。練習ではウォームアップを指揮をします。他にもコーチとのコミュニケーションなどもあります。

これらを1人で兼務していたら毎日とてつもない長時間労働でブラックどころの話じゃありません。身体的なストレスになりますし、一つ一つの仕事の質を落とさなければ業務が回りません。仕事の質への満足度が低くなり、精神的なストレスになります。それぞれの質が落ちれば選手のパフォーマンスに大きく影響しますし、選手の不満も大きくなります。これでは組織の中でlose-loseな関係になり、組織として上手くいかなくなります。

 

これらがATSC1人で兼任すべきで無いと僕が考える理由です。プロや大学レベルのチームではそれぞれを雇うべきです。予算がないからというのは経営側の問題であり、こちらからしたら単なるブラックに過ぎないのです。これはまた別のトピックなのでまたの機会に。

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この記事を書いた人

パフォーマンスインテグレーション代表
全米アスレティックトレーナー協会公認、アスレティックトレーナー(ATC)

東京の市ヶ谷で怪我の予防と施術、リハビリテーション、トレーニングを行なっています。腰痛や膝の痛みのリハビリの専門家です。ブログではスポーツ障害や健康に役立つ情報を中心に発信しています。

アメリカの大学(NCAAディビジョン1)にて多競技でアスレティックトレーナー(ATC)として12年間働きました。多くの大学生やプロアスリートの怪我の予防や治療、リハビリを行なってきました。

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