バスケットボール選手に長距離走のトレーニングは必要なのでしょうか。バスケットボールではどのような運動が行われているのでしょうか。今回はこれらについて考察します。
バスケットボール選手に長距離走は必要か?
結論からいうとバスケットボール選手に長距離走は必要という訳ではないというのが僕の考えるところです。
僕が中学生や高校生の時に部活の一環で10km走をやったりしました。現在でも大学のバスケットボール部などでオフシーズンの合宿や練習で20kmなどの長距離走をするチームがあるようです。
僕はアメリカのNCAA D1チームを多く見てきましたが、このようなトレーニングをしているチームは見たことがありません。NBAの選手がこのようなトレーニングをしているという話も聞いたことがありません。バスケットボールの試合中に20kmを続けて走ることはあるでしょうか。20kmを続けて走るペースや体力はバスケットボールにどれくらい繋がるでしょうか。
バスケットボールでの主な運動
バスケットボールでは約20%が有酸素運動、そして約80%が無酸素運動と言われています(1。そして、一般的にバスケットボールは高いレベルの無酸素運動の体力が必要とされています(1。試合中には21秒毎に2秒から6秒間の高強度の動きが行われており、これらの強度はVO2maxの60~75%、最大心拍数の70~90%であるという研究もあります(1。
また、バスケットボールではスプリントや方向転換のような水平方向への動き、ジャンプシュートやリバウンドのような垂直方向の動き、そして、バスケットへのペネトレイトやブロックショットのような水平方向への動きと垂直方向への動きを合わせた動きがあります(1。このような高強度の動きは試合を通して断続的に行われています(1。
バスケットボールにおける持久力テスト
バスケットボールにおける持久力テストではヨーヨーテストやヨーヨー間欠性回復テストなどがよく用いられるように思います。これらのテストでは決められたペース内で20mを1往復し、スピードのペースが徐々に速くなっていきます。例えば、ヨーヨー間欠性回復テストでは最初は時速10kmのペース、それ以降は時速0.5kmずつペースが上がります(1。このようなテストが多く用いられているということは短い距離を続けて走ることがバスケットボールにおいて重要とされていると言えるでしょう。
長距離走は無駄なのか?
ではバスケットボールにおいて20km走のような長距離走は無駄なのでしょうか?長距離走を行うことで基礎的な持久力が養われることは間違い無いでしょう。ですから全くの無駄とは言えないと思います。しかしながら、バスケットボールにおいてそのような有酸素運動が必要とされているかというと優先度は決して高くないでしょう。
アスレティックトレーナーとしての視点
このトピックで重要なことは怪我の予防と怪我を考慮した優先順位付けと取捨選択でしょう。上に述べたことからバスケットボールにおいて長距離走を行うことは優先順位は高くありません。長距離走による基礎持久力の向上と怪我のリスクを天秤にかけたとき、基礎持久力の向上による利益よりも怪我のリスクによる不利益の方が優ってしまうからです。
例えば、ランニングでは体重の6~8倍の力が膝にかかります(2。20km走をすれば膝には休みなく常に体重の6~8倍の力がかかることになります。これは膝へかなりの負担になることが考えられます。
また、チームにおけるバスケットボール選手を見た場合、体重の範囲は陸上長距離チームと比べかなり広くなるでしょう。比較的体重の軽い選手から重い選手までが入り混ざっています。体重の重い選手は更に関節への負担は大きくなるでしょう。膝だけではなく、足や足首、体の他の関節への影響も考慮しなければなりません。
長距離走を行うことによって体へかかる負荷やバスケットボールをプレーする上での有効性を考える必要は重要だと僕は思います。
参考文献
- Gottlieb, R, Shalom, A, Calleja-Gonzalez, J (2021). Physiology of Basketball – Field Tests. Review Article. Journal of Human Kinetics, Vol 77, 159-167.
- https://www.dmu.edu/blog/2020/08/is-running-bad-for-your-knees/