膝関節脱臼とはどのような怪我なのか簡単に説明します。2019年NCAA女子体操の全国大会で両膝脱臼という大きな怪我がありました。
女子体操で両膝関節を脱臼
LSU(ルイジアナステイト大)で行われたリージョナル大会でオーバーン大の選手である4年生のSamantha Cerioが床の演技中に両膝を脱臼しました。彼女は演技開始最初のタンブリング パスでa handspring double front flip with a blind landingをした際に受傷しました。脱臼と同時に複数の靭帯も損傷したと報告されています。
会場でオーバーン大のATやLSUのAT, 試合会場に待機していた救急医療隊により救護を受け素早く医療施設に搬送されました。オーバーン大学のHCによると、ジェームス アンドリュー医師により手術が行われたそうです。
彼女は4年生なのでこれで体操選手としてのキャリアは終了しましたが、この怪我からの早い回復を祈るばかりです。
膝関節脱臼とは
膝関節脱臼とは大腿骨と脛骨が脱臼する怪我のことです。ここで間違ってはいけないことは膝蓋骨脱臼、膝のお皿の脱臼では無いということです。これはとても重要です。重度な怪我の一つですぐに医療機関へ搬送し、医師による診断と処置が必要です。
膝脱臼では一般的に3つもしくはそれ以上の靭帯が断裂します。また、膝脱臼で最も注意を払わなければならないのが膝窩動脈/popliteal arteryと腓骨神経/peroneal nerveの損傷です。
解剖
膝には大きく4つの靭帯があります。それらは前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靱帯、外側側副靭帯です。これらの靭帯により、大腿骨と脛骨の前後や左右、回旋の動きを制限しています。
また、膝周辺の筋肉と腱により膝関節の安定性を保っています。それらの筋肉は、外側広筋、内側広筋、中間広筋、大腿直筋、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋、縫工筋、薄筋、腸脛靭帯、膝窩筋、腓腹筋です (1。
膝の裏の膝窩には主要な動脈と神経が走行しており、代表的なのが膝窩動脈と腓骨神経です。膝窩動脈は下肢に血液を供給する重要な動脈です。膝窩動脈の損傷や断裂は大きな怪我の原因になります。後ほどこれについては説明をします。
原因
膝関節脱臼の原因の多くは膝へ直接的な大きな力が加わって起こります (1。スポーツでは膝へのタックルや着地の失敗による膝への大きな圧力がかかった時に起こります。また、日常では交通事故で起こる場合があります。
膝関節脱臼では膝周辺の軟部組織が大きな損傷をします。それらは関節包や膝窩筋腱、半月板、軟骨です(1。
膝関節脱臼の分類分は一般的に脛骨が大腿骨に対してどう移動したかによって分類されます (1。分類には5種類あり、それらは前方、後方、内側、外側、回旋になります。
診断
膝関節脱臼の対処で最も重要なことは膝関節脱臼であるということの認識です (1。スポーツの現場でアスレティックトレーナー(AT)が最初に評価をする際にもこの怪我が膝関節脱臼であると分かることがとても重要になります。膝関節脱臼が起こり、すぐに脱臼が戻った場合、膝関節脱臼をしたことを見逃すことがあり怪我の重大さを認識できない場合があります。なぜこの怪我の認識が重要かというと血管損傷により下肢の切断の可能性があるからです。
この怪我で最も重要なことは神経血管の損傷を認識することです。ですから、膝関節脱臼の可能性が考えられるときは神経血管の評価を最優先に行います(1。真っ先に後脛骨脈と足背脈の評価し、比較することが必要です。他にはデルマトーム、ミオトーム、毛細血管再充満、皮膚の色、皮膚の温度を両側で評価することが必要です (1。
一般的に膝関節脱臼をした選手は痛みを訴え、プレーを続けることができません。自然に脱臼が戻っていない場合、膝の明らかな変形が見られます。受傷時に靭帯や軟部組織がかなり損傷しているため、筋力テストは試みるべきではありません (1。
膝関節脱臼で膝窩動脈の損傷が起こる割合は約20%〜40%と言われています (1。動脈の損傷による血管不全が8時間以上治療され無い場合は86%、8時間以内に治療され場合は11%の下肢切断の可能性があります (1。ここで注意しなければならないことは膝窩動脈の損傷があるにも関わらず足部が暖かかったり、足背脈が確認される場合があるということです (1。
治療法
膝関節脱臼の初期対応は膝を伸展位または最も快適な位置で固定し、すぐに最寄りの救急治療室に運搬することです。
膝関節脱臼では多くの場合靭帯断裂があるため手術をするでしょう。そして、どの靭帯が断裂しているか、何が損傷しているかによって手術方法は異なります。
リハビリテーション
どのような手術をしたかに関わらず、膝関節脱臼をした選手は長期間のリハビリテーションが必要です (1。プレーへの復帰は少なくとも9〜12ヶ月と言われています (1。また、包括的なリハビリテーションを行なったとしても怪我前と同じレベルに戻るのは難しいと言われています (1。
アスレティックトレーナーの視点
個人的に実際に膝関節脱臼の怪我に遭遇したことは幸いにも今までの現場経験ではありません。しかしながら、プレー中に膝の怪我があった時は膝関節脱臼のことが常に頭の片隅にあります。それは前述したように切断の可能性があるからです。膝関節脱臼の認識が遅かったために切断になったという話を聞いたり、読んだりしたことがあります。膝の大きな怪我があった場合、靭帯や半月板の評価だけでなく、継続的に脈の確認や毛細血管再充満の確認を両側で比べることを心がけています。少しでも膝関節脱臼の疑いがある場合は躊躇せずに救急車を呼びましょう。膝関節脱臼を見逃すより、膝関節脱臼では無かったで済んだ方が良いです。
参考文献
- Andrew Henrichs, A Review of Knee Dislocations, Journal of athletic training, 2004; 39(4):365-369